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 HMの噺

有内毎晩

気が付いたら、俺は裸だった。

檻の中。鉄製だろうか。外がいやに明るい。監獄、という感じとは少し違う。

俺は檻の外に目を遣った。そこに並んでいたのは、異形の目。目。目。

そこから一つの結論に繋げるのは難しくなかった。

ああ、俺は見世物なんだ。

そう悟った。

キャトル・ミューティレーションというものがある。キャトルというのは牛のことで、牛の切断とするのが直訳だが、一般的には異星人による家畜虐殺という意味での方が知られているだろう。広義的には異星人に家畜が連れ去られるのも一種のキャトル・ミューティレーションとしており、言い換えるに、今の俺の状況はヒューマン・ミューティレーションとも呼ぶべきものだった。

異星人の形状は俺が地球で抱いていたイメージとはかけ離れたもので、人型とも、タコ型とも形容し難く、どこか神話の怪物を連想させた。

ふと横を見ると、隣にはチンパンジーが檻に入れられていた。同じ霊長類というくくりで近くに置かれたのだろうか。実質的に地球を支配しているヒトがチンパンジーと並べられるというのも癪だが、異星人にもまだそこまで理解ができていないのかもしれない。

それにしても、俺を見てる異星人が多い。娯楽目的か。もしかしたらここは異星における動物園のようなものか。俺は客寄せパンダなのかもしれない。

だとすれば俺にも考えがある。ささやかな反抗だ。

あいつら一人たりとも無視しよう。絶対に何にも反応しないし、ここから一歩も動かない。恐らくこれから与えられるであろう食事にも振り向かない。

あいつらに何一つ面白みも感じさせることなく、俺は静かに死んでやろう。

飲まず食わずの状態がしばらく続いて何日が経ったのだろうか。ここは明かりが消えない。太陽も存在しないのかもしれない。体内時計が完全に狂って、今の俺には時間感覚が無くなっていた。

一つだけ俺の周りの環境に変化があった。

裸の女が俺と同じ檻の中に収容された。久しぶりに見る人間だった。

多分、俺と同じ日本人だった。割と美人だった。

同じ檻に雌雄一緒に入れれば勝手に交尾でも始めると思ったのだろうか。なめられたものである。人間はそんじょそこらの獣と違って理性がある。絶対にあいつらの思い通りに行動してなるものか。

「やらないのかい?」

女から口を開いてきた。そんなことしたら、あいつらに面白がられるだけだというのに。

「俺はあいつらの思惑には乗らない。だからお前にも構わない」

「悲しいなあ。私の、女としての自信が砕かれそうだよ」

女は何故か微笑んだ。

……お前、気でも触れたか。なんでこの状況で楽しそうにしてるんだ」

「楽しい?正確に言うと、嬉しいのかな。今の私は使命感に満ちている。だから君にもその気になってくれないと私が困るんだ」

女の言い回しが少し引っかかった。嬉しい?使命感?

「おや、怪訝な顔をしているね。もしかして君は知らないのかな。地球は征服されたんだよ。E-113星人の侵攻によってね」

衝撃。俺の中で何かが崩れた気がした。

「彼らの技術力は私たちの比じゃない。そして、彼らにとって私たちの価値はそこら辺の猿と変わりない。だったら、彼らの機嫌を損ねないように可愛がってもらう方が賢明だろう?だから私は見世物として生きることを決めたんだ」

「お前……本当にそれでいいと思ってるのか」

「もちろん。考えてもご覧。彼らは、私たち地球人よりも遥かに有能な存在なんだ。非礼にあたる行動さえしなければ、危害は加えてこないはずさ。その下で生きる第一世代の人間としての誇りを感じるべきだよ。アダムとイヴだよ。私と君で子を成すことは義務であり、彼らに対する奉仕になるんだ。いや、動物園的に考えれば、カンカンとランランとでも言った方が適切かな」

女はただ嬉々としていた。俺には理解できなかった。

女が狂っているだけかと思ったが、そこには違和感があった。直感に近い。本来、俺と女は本質的に近い人間であると感じた。周囲の環境を把握し、状況を見極め、結論を導き出す。考え方が似通っているのだ。

だからこそ、女の出した結論に俺は戸惑っていた。何が女をそこまで変えたのか。そして、一つの単語が浮かぶ。地球侵略。あるいはそれを境に、俺が拉致されている間に、その出来事はここまで大きな変化を人間にもたらすものなのか。

俺はこの時、ひどく孤独に感じた。人類に俺一人だけが置き去りにされたような絶望感。俺にはそれが耐えられなかった。

「無理をしなくていいんだよ。流れに身を委ねればいい。私は君を受け入れる」

理性も何もかもが吹っ飛んだ。

檻の外の視線もはばからず、俺は女の体を抱いた。

与えられた餌も残さず平らげ、観衆の前ではアクションを起こすように心がけた。

そのうち、虚しさすらも感じることを忘れた。