おかしな城の少女たち  バックベアード



5、メアリとシャーロット

  カラフルな部屋の中央に据えられた、桃色の寝台で動く影が二つ。

「ほら、メアリ、今日も答えを探しに行くんでしょ?」

「うーん……だってぇ、昨日遅かったからねーむーいーの」

 引っぺがされたシーツを奪い返し、メアリが繭のようにそれにくるまる。シャーロットは渾身の力で引っ張るが、メアリが白いコートを手放す気配はない。

「……北風で駄目なら、太陽ね」

 シャーロットは一度ベッドを降りると、大量のシーツを持って戻ってきた。腕一杯に抱えたそれを、マシュマロのような今のメアリの上にどさっと置く。

 シャーロットが指を折って数え、きっかり十秒。あまりの暑苦しさに、メアリが寝台を転がり出てきた。

「わ、私は旅人じゃないのに!」

「でしょうね、これから始まるんだもの」

 待つのにいい加減飽きたシャーロットは、未だいやいやと手足をばたつかせるメアリの首根っこを押さえ、洗面所へ放り込んだ。

「まったく……」

 憤懣遣る方ないシャーロットの耳が、流れる水の音とぶくぶくという聞きなれない音を拾った。洗面所に駆け込むと、洗面台に顔を突っ伏しているメアリの姿。

「ちょっとメアリ、どこに旅立つつもりしてるの!?」

「……あれ? 今、天使さんが遊ぼうって誘いに来てくれたのに」

 渡されたタオルでゴシゴシと顔を拭っているメアリが、首を傾げた。

「私との約束忘れて、見ず知らずの天使たちと遊びに行こうとしないでよ」

 シャーロットの文句を、メアリは手で耳を塞いで聞こえない振りをする。洗面を終えると、部屋に駆け戻って服を漁り始めた。いつも通り、部屋中にクローゼットの服を撒きちらしていく。

「アンが可哀そうだと思わないのかしら……」

「アンは私が楽しそうなら良いって言ってたもん!」

 メアリが自信満々にむんと胸を張るが、シャーロットは額に手をやった。

「あとでアンに怒られるわよ、それ……」

 なんで? と、メアリは疑問符を浮かべたが、メアリが着替え終わったのを確認したシャーロットは、答えずに部屋を出て行く。すぐさまメアリもそれを追って走り出した。

「ちょっと待ってよー、シャーロットってば!」

――かくして、今日も二人の冒険は始まった。

 



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