ネズミの話
船橋 正夫
一匹のネズミがチーズを見つけた。
そのネズミは、とてもおなかが減っていた。
しかし、仲間のネズミたちも同じくおなかを空かしているので、食べずに仲間に報告しに行った。
仲間たちはその知らせを聞いて、大喜びした。
みんなおなかが減っていたので、勇んでチーズを見つけたという場所へと向かった。
しかしそこには何もなかった。
「冗談じゃない! お前は俺たちに嘘を吐いたのか!」
チーズを見つけたネズミは、仲間たちから非難を浴びた。
「そんな事ないよ! 確かにここで見つけたんだ!」
「じゃあ、一人で食べたって言うのかよ!」
そのネズミは怒りを買ってしまい、空腹で気が立っている仲間たちから追い出されてしまった。
行くあてのないネズミは、おなかを空かせながら、寒空の下をとぼとぼ歩いた。
その時、一羽のカラスがやって来た。
「ネズミさん、こんにちは。元気がないみたいだね」
「うん、実は……」
ネズミは事の顛末をカラスに聞かせた。
「そのチーズなら、さっき僕が拾ったよ。後でネズミさんたちの所に届けようと思ってたんだ」
思わぬ知らせ。そうしてネズミは、カラスからさっきのチーズをもらうことができた。
一匹のネズミがチーズを背負っていた。
そのネズミは、とてもおなかが減っていた。
しかし、同じくおなかを空かしている仲間たちのことを思って、食べずに仲間たちに届けることにした。
仲間たちはネズミが戻ってきたのを見て、とても怒った。
「どのツラ下げて戻ってきたんだよ!」
ネズミはチーズを見せ、仲間たちに事情を説明した。
しかし気が立っている仲間たちは、その言葉をそのまま受け取ることはなかった。
「自分を正当化するのに必死だな。でも、チーズを持ってきたことだけは評価してやる」
ネズミは赦してもらえず、チーズを取られて、再び追い出された。
ネズミはとてもおなかが減っていた。
仲間たちのことを考え、馬鹿正直にやってきた結果がこれなのか、と自分の運命を呪った。
もうこれ以上は歩けない。ネズミはその場で休むことにした。
一匹のネズミが倒れていた。
もう息も絶え絶えで、ただ弱々しく呼吸をしているだけだった・
そこにさっきのカラスがやって来た。
「どうしたんだい?」と尋ねることはしなかった。
そのかわり、こんな言葉を吐いた。
「僕は今、とてもおなかが空いてるんだ。食べ物は全然見つからない。
だから、悪いんだけど君を――食べてもいいかな?」
ネズミは最後の力を振りしぼって、
「いいよ」と、一言だけ答えた。
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