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靴の下

児童安心

俺は踏まれていた。

現在の状況を客観的に説明すると、土下座の姿勢で額を床にこすり付け、その後頭部を目の前の椅子に座った少女に思い切り踏まれている。要するに足置き代わりである。二十過ぎたいい大人が、椅子に座った少し年の離れた妹ぐらいの年齢のそれに、頭を垂れて許しを請う図って傍目から見たらどう見えるんだろうか。どういう風に見て、どういう風に考えても、俺はみっともない姿を晒していることになりそうだが。

感想は、痛い。とりあえず痛い。ただ踏まれているのではなく、硬くて尖ったヒールの先が、ぐりぐりと遠慮なく俺の頭皮を抉っている。踏んづけている脚の持ち主は、身長百四十センチぐらいで体重が極端に重いというわけでもなさそうなので、矢鱈に重いのは害意と悪意の分だろう。

もしくは、意外と見かけによらず体重が重いのかも――などと不埒な事を考えたせいか、脚の重みがいや増した。ヒールの先もただ肉を抉るのではなく、細胞をゆっくりと念入りに磨り潰すような動きに変わった。穴でも開けとでも言わんばかりに、一か所だけを延々と抉られる。

どれくらいそうされていたのか。不意に、頭の痛みと足の重さが無くなった。許されたのかと思って顔を上げようとした瞬間、後頭部を押さえつけられ、額は床と思いがけず早く再会した。

再び状態は最初の状態に。ただ一つ違うのは、後頭部にある靴の感触か。先ほどまではハイヒールで、比較的接地面積の広い部分とヒールの部分の二か所で分かれていたのだが、今はべったりと靴底のほとんどが頭についている。しかも今回は両足だ。

あと、重さが違う。連想されたのは、厚底の靴。そういえば隣に何かを収納しているらしき、小型のクローゼットのようなものがあった理由はこれか。次に気になるのは、理由。なぜ靴を替えたのだろうかと考えていると、片方の足が頭上に浮いた。

一瞬の後、分厚くて重い合成皮の塊が振り下ろされる。重い痛みが後頭部にのしかかってきて、頭がくらくらした。しかし、それは一度では終わらない。片足が振り下ろされると片足が上がり、交互に落とされる布製の拳。激突の鈍い音が俺の耳にも届いてくるのだが、断続的な衝撃と脳内を揺さぶる振動とが合わさって、頭がおかしくなりそうだ。

いい加減に頭蓋骨が陥没するのではないかと心配になるほどの打撃の後、やっと怒涛の連打が止まった。だが、顔を上げようという考えはない。上げたら、また叩き落とされるのだろうから。そして、

やっぱり頭部に重み。

今度はブーツだ、どうやらブーツに履き替えたらしい。靴の重みはさっきより軽いが、底面の凹凸が激しい。それがそれほど鋭いわけでもないはずの頭皮の触覚で把握できるほど、強く容赦なく押し付けられている。この時点で頭が変形しそうな圧迫感なのだが、そしてその状態から乗せられた足が捻られた。ざりざりっ!という、決して頭部から放たれるべきではない音が響く。痛い痛い、と心の中だけで悲鳴を上げる。口はあらんかぎりの力で歯を食いしばっているので、声を出す余裕などない。

抉るというよりは、削る。痛覚神経を、直に削られているような錯覚を覚える。本当に、頭の皮が剥がれるのではないだろうか。

今回はさっきまでのように間断なく痛めつけるのではなく、痛みが引いたころに忘れさせまいと再び足が捻られる。加えて面的な痛みが続くのにアクセントをつけるためなのか、時々ブーツの踵で強かに頭を打たれた。

地獄のような時間が終わりを告げても、俺はしばらく体を起こせなかった。痛みの信号を捌くのに必死で、脳が機能していない。

ただのストレス解消だと、ようやく土下座の体勢から立ち直った俺に、そいつは不機嫌そうなまま言った。そのあんまりな言い草に、俺の頭をそんなことに使わないでほしいと食い下がると、

――お前の頭の中身はどうせ使えないのだから、せめて外側を役立てろ。

と、一蹴されたのだった。



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