鍵のおじさん      

風観 吹

 カギを失くした。大切なカギだ。

引き出しのカギ。

 どこかにいってしまった。心当たりのあるところはさんざん探したけれどどこにもない。

 あの引き出しの中には大切なものがたくさん入っているのに。

 開かずの引き出し。あの部屋と同じ。

 もう開けられない。中のものはもう出てこない。

 ぼくは家の中を探すのをあきらめて、街の広場に休みに来た。

 家は落ち着かない。

 ベンチに座って広場の噴水を眺めていたら、知らないおじさんがこっちに近づいてきた。

 父さまがよくかぶっている煙突の形をした黒い帽子。羽織っている黒いコートも父さまが出かける時に着ているのによく似ている。左手には家にもある細長い杖。

 父さまがよくする格好と似ているから、このおじさんもきっと紳士っていう人なんだろう。

「隣に座っても、よろしいですかな」

 おじさんはぼくの前に来るなりそう聞いてきた。

 いいですよ、とそう言いたかったけれど、声が出ただけでちゃんと言葉にならなかった。

 おじさんはぼくのとなりに座った。

 おじさんはぼくの顔を見ているけれど、ぼくは気にしないでごうごうと音をたてる噴水だけを見つめた。

 そうしていると、頭の中にカギのことばかりが浮かんでくる。これからあの開かなくなってしまった引き出しをどうするのか考えなければいけない。

「君は……、どうしてそんなに難しい顔をしているのですか?」

 今まで黙っていたおじさんが急にそう聞いてきた。

 ぼくはびっくりして振り向いた。

 丸眼鏡の向こうのきれいな青色の瞳がぼくをじっと見つめている。

「君のように遊び盛りの子供が、こんなところでそんな難しい顔をしているなんてもったいない」

 子供だって、悩むときは悩むんだ、と言ってやりたかったけど、その前におじさんがまた口を開いた。

「鍵でも、失くされたのですか」

 心の中を見られているような気がして、気持ちが悪くなった。

 ぼくの目の前にいるのは、とても不思議な人だ。

 ぼくは何も言えずにただおじさんの顔をじっと見た。

「どうしてわかるのかと言いたげですね」

 真剣だったおじさんの顔が急に優しくなった。

「鍵のことなら、なんでもわかるのですよ」

 ぼくには、おじさんの言っていることがよくわからなかった。

 でも、なぜかこの人ならぼくの悩みを解決してくれそうな気がした。

 ぼくは引き出しのカギのことを話した。

「ふむ、そうでしたか。引き出しの鍵を失くした。予備の鍵はもう既に紛失している、と」

 父さまよりもきれいに整った黒いヒゲを撫でながら、おじさんは言った。

 そして、ぼくの頭に大きな手を載せてにこっりと笑った。伝わってくる手袋のさわり心地は、父さまよりもやわらかい。

「心配しなくても大丈夫ですよ。その悩み、私が解決して差し上げましょう」

 ぼくはなんだか泣きそうになった。カギのことで本当に困っていたから。

 引き出しの中身は出したい。だけど、あの引き出しを壊したくなかった。

 片方をあきらめるなんてできない。

「本当に?」

「ええ、本当ですよ。私がその引き出しを開けて差し上げます」

 おじさんは立ち上がると、ぼくに手を差し伸べた。

「さ、まずは私をその引き出しの前に連れて行ってください」

 知らない人を家に連れて行くのはちょっと不安だ。

 でも、ぼくはおじさんの大きな手をとった。

なぜだかわからないけど、このおじさんなら信用してもいいと思った。それに、父さまは父さまと同じ紳士という人に興味があるから、このおじさんを連れていけば父さまもきっとよろこぶだろう。

 

 

 

ぼくの家は他の家より少し大きい。

母さまが言うには、すべて父さまのおかげなんだ。父さまが頑張ってお金を稼いでくれたから。

都の貴族の家にも負けないほどだと、いつも父さまは自慢げに言っている。

お客様が来るときは特に自慢げだ。広い家の中や、ぼくにはよくわからない美術品の説明を熱心にきかせる。

相手がおじさんみたいな人だとなおさらだ。

 ぼくがおじさんを連れて家に帰ると、母さまはおじさんを喜んで迎えてくれた。父さまはいなかった。お仕事が忙しいんだろう。

 連れてきたのはぼくなのに、ぼくは自分の部屋に行けと言われた。母さまはおじさんとぺちゃくちゃしゃべっている。おじさんが困っているのに、ずっとしゃべり続けるんだ。せめて客間に連れていけばいいのに、玄関でずっと話している。どうしてだろう。

 父さまはよくぼくに、つつしみ深い人間になりなさいとむつかしいことを言うけれど、母さまはつつしみ深い人間じゃないと思う。

 いつまでここにいるつもりですか、と叱られたから、ぼくは自分の部屋に戻ることにした。

 階段を上って、右に曲がって、一番奥の部屋がぼくの部屋だ。

 手前の部屋を通る時、いつも嫌な気分になる。

 カギのかかった部屋。誰も出てこないし、誰も入らない。戸の前にだけは、一日に何度か人が立つ。部屋の中に人はいるけれど、入ったままで、時にはいないんじゃないかとも思う。

 毎日毎日この部屋の前を通ると胸が痛くなる。

 かけ足でイヤな部屋の前を通りすぎて、ぼくは自分の部屋に入った。

 父さまが買ってくれた大きなカギ付きの引き出し棚。一番下の引き出しにだけカギがついている。

 茶色くぬられた引き出し。左端に鍵穴がある。この引き出しの中にはぼくの宝物が入っているんだ。

 父さまがくれたおもちゃ。母さまがくれた手紙。乳母がくれた手袋。姉さまがくれた絵や手紙。ぬいぐるみ。拾ってきてくれたきれいな石。いろんな宝物が入っているんだ。

 おじさんが来てくれる前にもう一度部屋の中を探そう。

 毛布の下。枕の下。シーツの下。ベッドの下。棚の下。めくれるだけのカーペットの下。コートのポケットの中。部屋のあちこちを探した。

 でも、まだおじさんはぼくの部屋に来てくれない。

 母さまはいつまでしゃべっているのだろう。母さまが話し出すと、なかなか途切れることがない。母さまの話はムダに長いと、姉さまは母さまに起こられるたびにいつも言っていた。

 またカギのかかった引き出しの前に座る。

 カギなしでも開かないかと、無駄なあがきをしてみる。取っ手に手をかけ、思い切り引く。

 がたがたというだけで、引き出しは開かなかった。

 がたがたがたがた。

 意地になってずっと揺らす。

 がたがたがたがた。

 開かない。開かない。どうして開かないんだ。

 ずっとそうしていると、部屋の戸が開いた。

 使用人に案内されて、おじさんが来たんだ。

 使用人にお礼を言って、おじさんはぼくの部屋に入ってきた。

「いやぁ、やっと君の部屋に来られましたよ」

 帽子をとって、コートを脱いだおじさんは、父さまよりもベストをかっこよく着こなしていた。

 戸を閉めて、おじさんはやけに真剣な顔をして言った。

「いやはや、君のお母様はお話が長い。それに早口だ。お話についていくのが大変でしたよ」

 おじさんは身をかがめて、カギ付きの引き出しを見つめた。

「この引き出しですね。……立派なものです」

 そう言っておじさんはぼくの顔をじっと見つめた。

 ぼくはうなずいた。

 おじさんはにっこり笑ってカギのかかった引き出しに手をかけた。 

 すると、引き出しは簡単に開いてしまった。

「開きましたよ」

 ぼくはぽかんとしておじさんの顔を見た。おじさんはまるで当たり前のことをしたように、涼しい顔をしている。

 おじさんはそっと引き出しを閉めた。

「もう鍵はかかっていませんよ。開けてみてください」

 ぼくは言われるがまま、引き出しの取っ手に手をかけた。

 さっきまではどれだけ引いてもがたがたいうだけだった引き出しが、何事もなかったかのようにするりと開いた。姉さまからもらったくまのぬいぐるみが顔を見せる。

 簡単に開きすぎて、今まで悩んでいたのが、ばかばかしくなった。

「どうして、開いたの?」

 おじさんは目を細くして、答えてくれた。

「私が鍵だからですよ」

 おじさんの言うことがどういうことなのかよくわからなかった。

「おじさんがカギなの?」

 ええ、とおじさんはうなずく。

「私は、どんな錠でも開けることができるのです。なぜかは知りませんが、いかなる鍵のかかった引き出しでも、扉も、金庫でも、まるで鍵がかかっていないようにすんなりと開けることができるのです」

「カギもないのに?」

「はい。私が鍵そのものなようです。どうしてそうなのか、私にもわかりませんがね」

 ぼくはあっけにとられてもうカギのかけられなくなった引き出しの中身をながめた。

くまのぬいぐるみのボタンの目が、引き出しの中からぼくを見つめている。ぼくのたくさんの宝物。また見ることができて本当に良かった。

 でも、もうカギをかけることができない。カギがないのだから。鍵穴しかない引き出しなんて、ただの引き出しだ。銀ぶちの鍵穴なんて、もうただの飾りなんだ。

「本物の鍵も、直に見つかりますよ」

 ぼくの心はまたおじさんに見透かされた。

 本当に不思議なおじさんだ。

 驚いて顔を上げると、おじさんはまたぼくの頭をなでてくれた。おじさんに頭をなでてもらうと、とてもあったかい気持ちになる。とても不思議だ。

「言ったでしょう、私は鍵のことなら何でも分かるのですよ」

 コンコン、と戸を叩く音が聞こえた。

 慌てて立ち上がって、ぼくが戸を開けると、そこには使用人のお姉さんが立っていた。

 ぼくが昨日着ていたズボンを抱えている。

「ぼっちゃま、このズボンの中に鍵が入っていたのですが、ぼっちゃまのものですか」

 そう言って、お姉さんが差し出したのは、小さな銀のカギだった。

 ぼくが探していたカギ。あの引き出しのカギだ。

 おじさんの言った通り、カギが見つかった。

 使用人のお姉さんが帰ってしまったあと、ぼくは胸をはずませながら、おじさんのところにかけよった。

「すごいよ、おじさん! 本当におじさんの言った通りだ」

 おじさんはにこにこしていた。

 父さまよりも頼りになる人のような気がした。

「さて、もう一つ。この部屋に鍵があるようだ」

 真面目な顔でそう言うと、おじさんは本棚のところへ歩いて行った。

 一番下の段の、分厚い本を手に取った。

 実はそれは本物の本ではなくて、本の形をした箱だ。本棚の見栄えが良くなると言って、父さまが置いてくれたんだ。

 おじさんがその本を開くと、中の空洞から今ぼくが持っているのと同じ、銀のカギが出てきた。ずっと前にぼくが失くしたスペアのカギだ。

 どうしてそんなところにいれてしまったんだろう。

 ぼくは自分が不思議になったけど、それ以上におじさんのことが不思議だった。本当に不思議なおじさんだ。

 でも、おじさんの言っていることは本当のことなんだと思った。

 このおじさんなら、本当にどんなカギがかかった扉も開けてくれるんだ。

「おじさん!」

 思わず大きな声を出してしまった。

「なんだい?」

「開けてほしい戸があるんです」

 おじさんは何も言わずにぼくの後についてきてくれた。

 ぼくの隣の部屋。姉さまの部屋の前で止まる。

「この戸を、開けてほしいんです」

 ぼくは真剣だった。

 おじさんは、不思議そうな顔でぼくの顔を覗き込む。

「どうしてですか。中の人に開けてもらえばよろしいではありませんか」

 ぼくは首を振った。胸が痛くて仕方なかった。

 この部屋の中には、ぼくの姉さまがいる。

ぼくより五つ年上の姉さま。三年前にこの部屋に閉じこもってしまった姉さま。父さまが、母さまがどんなにこの戸越しに声をかけても、何の返事もしてくれない姉さま。優しかった姉さま。今はもう姿を見せてくれない姉さま。

このカギの閉まった戸の向こうに、姉さまがいるんだ。

カギは姉さましか持っていない。カギは部屋の中にある。だから、誰もこの戸を開けることができない。

でも、このおじさんならこの戸を開けてくれるはずだ。

「この中には、姉さまがいるんだ。三年前から、出てきてくれない。カギをかけたまま、出てきてくれないんだ」

 ぼくがそう言うと、おじさんは難しい顔をした。

「お姉さまに開けてもらえばよいではありませんか」

「開けてくれないから、言ってるんじゃないか!」

 あんまりにもおじさんが分かってくれないから、ぼくの声は大きくなってしまった。

 おじさんはちょっと驚いたけれど、すぐに真面目な顔に戻った。

「おじさんはどんなカギがかかっていても、すぐ開けられるんでしょ。だったら、この戸だって、簡単に開けられるじゃないか。どうして、開けてくれないんだよ」

「お姉さまは、どうして出てこないのですか」

 ぼくの声とは反対に、おじさんの声はすごく冷静だ。

「そんなの知らないよ! 知らないから、開けてほしいんだ。だから、早く開けてよ! ぼくは姉さまに……」

「私は、開けられる錠しか開けません。ですから、鍵がすぐ見つかる君の引き出しは、開けて差し上げました。私がいなくとも、開けられることには変わらなかったからです」

 おじさんが言うことはすごく難しく思えて、ぼくにはさっぱりわからない。 

 ぼくがただわかることは、このままではおじさんはこの戸を開けてくれないということだ。

 黙っていると、おじさんはまた話し出した。

「お姉さまの部屋の、この戸を開けることはできます。ですが、この戸を開けるのは私ではいけないのです。この戸を開けるのはお姉さまでなければなりません」

 おじさんは長い背を丸めて、ぼくに視線を合わせてくれた。

「私にはお姉さまがどうしてこの部屋に閉じこもってしまったのかはわかりません。ですが、この問題を解く鍵を握っているのは君や、君の家族だということはわかります」

 話を聞いている内に、ぼくは泣きそうになった。目が熱くなって、うまく言葉が出てこない。

「私はどんな鍵にでもなれます。ですが、どんな鍵になってもよいわけではないのです」

 とうとうぼくの目から涙が溢れだした。

 止めたいけど、止まらない。 

 姉さまもこんな風に泣いているのだろうか。姉さまはよく泣いていた。いつも父さまと母さまのことで泣いていた。

 姉さまは嘘を吐くのが嫌いな人だ。だから、父さまや母さまが見栄っ張りなのがイヤなんだ。イヤでイヤで仕方なかったんだ。

 姉さまはつらかった。だから、部屋にカギをかけたんだ。

「お姉さまの心を開かなければ、この戸は開きません。その鍵は、君なのですよ。エドワード君」

 どうしてぼくの名前を知っているんだろう。

 ぼくは驚いておじさんの顔を見上げた。

 おじさんはぼくの頭をくしゃくしゃとなでまわして、優しく笑った。

「私は鍵のことなら何でも分かります。だから、お姉様の心の鍵、つまり君のことも知っているのですよ」

 ご家族のこともね、と言うおじさんの声には、なんだか少し力がなかった。

「本当に、ぼくがカギなの? 姉さまをこの部屋から出せるの?」

 おじさんはうなずいた。ゆっくりと、うなずいてくれた。

「君が鍵であることは本当です」

 ぼくの頭から大きな手をはなして、おじさんは立ち上がった。

「ですが、鍵穴に合うかはエドワード君次第ですよ」

 どういうことかよくわからなくて、戸惑っているうちに、おじさんが歩き出した。階段の方にむかっている。

 ぼくは慌ててその後を追いかけた。

「おじさん、どこに行くの」

 思わずそう叫ぶと、おじさんは階段の手前で止まってくれた。

 ふりむいて、また笑う。

「そろそろおいとまさせていただきます」

「どうして、帰っちゃうの」

「私がここでできる事は全てしました。後は、君がどうするか、なのです」

 そんなの、ぼくにはわからないよ。

 そう叫びたかったけれど、うまく声が出てくれなかった。

「だから、私はもう必要ありません。君はもう開ける方法を知っていますからね」

 口の中が渇いて、ノドの奥がはりつくみたいだ。

 行かないで。

 その言葉もうまく出せなかった。

 おじさんは、何度もぼくの頭を撫でてくれた手を振ってくれた。

「さようなら、エドワード君」

 そう言い残して、おじさんは階段を下って行ってしまった。

 たぶん、おじさんが階段を下りきるまでぼくはその場に立ったままだった。

 階段の下の方から聞こえてきた母様の高い声を聞いたとき、ぼくは自分の部屋に戻った。

 おじさんが開けてくれた引き出しを、もう一度開ける。

 昔、姉さまがくれたくまのぬいぐるみが顔を出した。

 割れ物をさわるみたいに、ぬいぐるみをかかえる。顔におしつけたせいぜ、ふき忘れていた涙と鼻水がしみ込んだ。

 木の匂いがする。引き出しは木でできているから、そのせいだ。

 紅茶の匂いもする。姉さまからぬいぐるみをもらったことがとてもうれしくて、ティータイムの時にもくまさんを抱いていたら、紅茶をこぼしてしまったんだ。すぐに洗ってもらったけれど、茶色いくまさんの体がもっと茶色くなっているところがまだある。

 焦げた匂いもちょっとだけする。暖炉のそばで姉さまと人形ごっこをして遊んだとき、くまさんをもう少しで燃やしてしまうところだった。今でも、ぬいぐるみの右手の先には焦げた跡みたいなのものが残っている。

 消えないぼくと姉さまの思い出。

 姉さまにとってのぼくは、きっとこのぬいぐるみで遊んでいるぼくだと思う。

 ぼくと姉さまの楽しかった思い出は、いつもくまさんと一緒だったから。

 ぼくは部屋から出た。そして、姉さまの部屋の戸に向かい合った。

 母様の声が、まだ下の方から聞こえる。おじさんはまだ帰れてないんだ。

 おじさんとぼくがしていた話は、きっと姉さまにも聞こえていたと思う。だって、こんなに近いんだから。

 この薄い木の戸の向こう。そんな近くに姉さまはいるんだ。

 ぼくがカギだと聞いて、姉さまはどう思ったのだろう。姉さまもそう思っているのかな。だとしたら、ぼくが開けてと言うだけで、開けてくれるだろうか。

 もしかしたら、簡単なことなのかもしれない。

 今まで自分が何もしてこなかったのが不思議になるくらいに。

 父さまと母さまに任せておけば、姉さまは出てきてくれると信じていた。それに、どうして姉さまが閉じこもったのかよくわからないから、何をすればいいのか全然分からなかった。だから、何もせずに、ぼくはただ見ていた。

 でも、ぼくもカギなら、ぼくにも開けられる。父さまと母さまのカギは、きっと姉さまの鍵穴には合わないんだ。

 ぼくが開けるしかないんだ。

 母さまは外から来た人を、その人の予定をダメにするほどお話が好きな人だから、おじさんはすぐには帰れないだろう。

「姉さま」

 ぼくは、姉さまに向かってそう言った。すごく久しぶりだ。

 一緒に階段を下りて行って、おじさんに紹介してあげるんだ。

 ぼくを助けてくれた不思議なおじさんに――。




 


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