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誓いの日

                                            きづきまつり


「ねえ、あれ、羽根つきで使うラケット、なんていったっけ?」

 彼女は蜜柑の皮をむく手を止め、そんなことを言い出した。炬燵のぬくもりを全力で味わっていた私は、その幸せを破られた怒りの視線を向ける。しかしながら彼女はそういった無言の圧力に一切気が付かないタイプだ。

「なんだっけ?あの板」

「羽子板でしょ?」

 彼女に任せるといつまでも思い出しそうにないので、あきらめて答えを与える。少しは感謝の意を示してくれるかとも思ったが、そういう気遣いを見せる気配もなく、「それそれ」と言って話を続ける。

「その、羽子板?なんかあれに描く絵って伝統工芸で、高いのだと何百万円もするんだって」

「ふーん」

「別にいい絵が描いてあるからって性能いいわけじゃないのに、変な話だよね」

 突然そんなことを言い出すおまえの方がよほど変だ、と言う気力も湧かない。炬燵とモチと蜜柑は偉大だ。こういうアイテムがあるから日本は平和を掲げていられるに違いない。

「正月遊びだと、コマと、カルタと、後なにあるっけ?」

「あれじゃない?凧上げとか」

「うっわ懐かしいなあ。手放したらどっか飛んでったことあるよ」

「それはひどいわね」

 彼女に率直な感想を述べ、さてまたモチでも食べるかと思うと皿の上にはなにもなかった。つい先程まであったはずなので、彼女が食べたのだろう。彼女はこれ見よがしにモチを食べ、満面の笑みを浮かべていた。
 ムッとしながらも、私は炬燵から出て皿を持つ。電子レンジで二分もかければ、それでできあがりだ。

「あれ?」
 後ろから声をかけられた。台所に向かう足を止め、私は振り向く。顔がやや不機嫌に歪んでいるであろうことが自分でも分かる。

「なに?」
 彼女はいつになく真剣そうな顔で私をじろじろと眺め、小さく呟いた。

「太った?」

 手に持った皿を投げるのをぐっとこらえ、私は意地になって台所に入る。
 今度の年末年始こそ、男を作ってやる。と、ウエスト周りに手をやりながら、私は新年の誓いをたてた。



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