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聖パルミジャーノの誘惑
 きのこごはん
シ・マントス川のほとりに、モツレヘムという町があった。モツレヘムの外れ、人もほとんど立ち入らぬ深い森の、テ・キト峠を越えたところに、パルミジャーノという老人が、独りで住んでいた。
 パルミジャーノは、自分の事を、この世界で最も幸運な人間だと思っていた。日の出と共に目覚めると、まずは、その日も無事に太陽が昇った事を幸運に思い、空と星を操る神に感謝してこう言った。
「ああ、良かった良かった、運が良かった、神さんが気まぐれを起こさなんで」
 朝食をこしらえ、たった一人で席に着くと、その日の朝食分の食べ物が間に合ったことを幸運に思い、パンを司る神に感謝してこう言った。
「ああ、良かった良かった、運が良かった。わしが飯を食う事を神さんが許してくだすった」
 朝食を食べ終えると、パルミジャーノは庭に出て、日が昇りきるまでの間、薪を割った。それが終わると、パルミジャーノはまた感謝して、こう言った。
「ああ、良かった良かった、運が良かった。これで今夜も凍えずに済む」
 朝食の残りで昼を済ますと、パルミジャーノは弓矢を手にして、狩りに出た。
 獲物が獲れれば、パルミジャーノは大いに感謝して、こう言った。
「ああ、良かった良かった、運が良かった。山の神さんがわしに飯を分けてくだすった」
 また、獲物が全く獲れずとも、パルミジャーノは更に感謝して、こう言った。
「ああ、良かった良かった、運が良かった。わしの分が誰かに回った。これで誰かが今日の飯にありつける」
 日が沈めば、パルミジャーノは夕食をこしらえ、薪を燃やして暖を取った。そしてやはり、その日を幸運だったと思い、感謝した。
 夜が更けると、次の日も変わらず幸運でいられるよう祈りながら、布団に入るのだった。
 そんなパルミジャーノを、空の上からじっと見ている疫病神がいた。
 疫病神は、人に不運を見舞わせるのが仕事だったので、なんとかこの老人に「ああ、運が悪い」と言わせてみたくなった。
 ある日、疫病神は空の上から軽く手をかざし、老人の体を流れる運の脈に、小さな乱れを呼び起こした。ほどなくして、薪割りをしていたパルミジャーノの頭上に、大きな栗の実が落ちてきて、禿頭に刺さった。
 老人が飛び上がって痛がる様を見下ろしながら、貧乏神は満足げに笑っていた。パルミジャーノは空を見上げ、頭をさすりながら叫んだ。「なんと、運がよいことじゃ。帽子をかぶっていたおかげで、大事が小事ですんだ。しかも丁度良くおやつが手に入ったぞい! 神さんが恵んで下すったのじゃ!」
 嬉々として栗を拾う老人を睨みつけながら、貧乏神は地団駄を踏んだ。一応、確かに貧乏神も神の端くれなのだが、余計に腹が立った。
 貧乏神はやけになって、突風を呼びよせてもっとたくさんの栗を降らせたが、パルミジャーノを余分に喜ばせただけだったので、あきらめて雲の中に引っ込んだ。おかげでパルミジャーノ宅の庭先には、大きな栗の実の山が出来上がった。
 次の日、貧乏神は森の動物たちにありったけの力を注ぎ込んで、飢えた野犬を三頭、パルミジャーノの家に向かわせた。
 庭先で洗濯物を干していたパルミジャーノは、よだれを垂らして襲いかかってくる野犬の姿を認めると、顔を真っ青にして逃げ出した。
 その姿を眺めながら、貧乏神は今度こそうまくいったとほくそ笑んだ。しかし、パルミジャーノが庭先の栗の山を崩して応戦するのをみて、歯ぎしりをした。
「ああ、神さんに感謝せねばならん。あんたが栗の実を与えて下すったおかげで助かった! 本当に運が良いことじゃ!」
 貧乏神は怒って、飢えたクマを呼び寄せてやろうとしたが、力が残っていなかったので、飢えたクモしか追加できなかった。そのクモはパルミジャーノの家の軒先に住み着き、飛んでくる蠅や蚊を捕まえるようになった。そのことを老人はまた神に感謝しはじめたので、貧乏神は体調を崩した。
 また次の日、貧乏神は旅人の姿に化けて、下界に降り立った。その足でパルミジャーノのもとへ赴くと、一晩の宿を恵んでくれと頼んだ。
「なんと運が良いことじゃ。退屈な一人暮らしに楽しいお客がやってきた!」と言って、パルミジャーノは貧乏神を快く迎え入れた。
 隙をみて何か悪さをしてやろうと企んでいた貧乏神だったが、老人に出された大量の蒸し栗やマロンケーキを食べて、満腹してくつろいでいるうちに寝てしまった。
 貧乏神は次の朝、栗の実を分けてもらい、手厚く見送られた。空の上に帰り着いてから初心を思い出して、悔しさに転げ回った。「神のご加護を」と言われたのが一番気に食わなかったが、貰った栗の実を食べているうちにめんどくさくなって、そのままふて寝した。
 さらに次の日、貧乏神は知り合いの疫病神に相談して、世界じゅうに疫病をはびこらせた。半年ほどで、麓では大量に死人が出はじめ、パルミジャーノも疫病にかかった。咳をして苦しむ、いまにも死んでしまいそうな老人の姿を見て、貧乏神は大いに喜んだ。
「やっと、あのじじいを参らせたぞ! 俺の勝ちだ!」
 ——ところが、彼らが疫病をはびこらせたおかげで、すぐに天国も地獄も定員いっぱいになってしまった。死ぬものと生まれるもののバランスが崩れて、いまや天界は大忙しとなり、悪魔の王は休暇を返上して働いていた。
 ついに、あまりの忙しさに参った悪魔の王は、天への階段の上でごった返している人々を、「保留」ということで追い返していった。
 パルミジャーノは、「うっとおしい! まだ来るな、まだ!」と言われる夢を見て、目を覚ました。
 そして、やはり神に感謝した。
 感謝された側、すなわち貧乏神と疫病神はというと、冬期休暇を取り上げられた悪魔の王の怒りを買い、貧乏神は蠅、疫病神は蚊の姿に変えられて、地上に追放された。
 そのあと、パルミジャーノのもとへ仕返しに行ったが、二人とも軒先のクモに食べられてしまったのは、言うまでもないことである。





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