合歓木通

「これは?」

それは肝臓。

「これは?」

それは十二指腸。

「じゃあこれは?」

見れば分かるじゃん。胃でしょ。

「こんな形してるんだ」

テレビとかで見たことないの?

「あんなの信用出来ないじゃん。実際にお腹切って見てるわけじゃないし」

うーん。まあ確かに。

「うわ、なっがいなあ。これは?」

回腸かな。小腸の一部。ここから大腸に続いてる。

「ふーん。あ、これは見たことあるよ」

舌だね。触ってみると結構ざらざらしてる。猫ほどじゃないだろうけどね。

「あれ?血管って、赤と青じゃないの?」

あれは分かりやすく色分けしてるだけでしょ。

「でもこれじゃ動脈と静脈がどっちがどっちか分かんないね」

どっちでもいいじゃん。

「そうなんだけどさ。ん?これは?」

それはね。なんて言うか、言いづらいんだけど。

「なんなの?」

あ、赤ちゃんのもと?

「ふーん。まあなんでもいいけどさ。結構詳しいんだね」

ま、自分の身体の事だし。こうしてひとつひとつ見てくってことはしたこと無いけどね。

「おお。大きいなあ。どこの骨だろ?」

大腿骨かな。

「カルシウムいっぱい摂ってたんだ」

人並にはね。

「ん?これはなんだろう」

あれ。こんなのあったっけ?

「ちょっとお。自分の身体なんでしょ」

そうだけどさ。えっと、なんだったっけなこれ。

「どこら辺にあったかをまず思い出せば?」

えーと。頭?いや、胸?お腹だったような気も。

「もー。全然ダメじゃん」

ごめんごめん。

「あー。これってあれだよ。この後帰ってからもずっと気になってるパターンのやつだよ」

そんなこと私に言われてもなあ。あ。

「ん?思い出した?」

ああ。思い出した。これは、私の。

「心」

心はどこにあったんだっけ。