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Fairy ring

師走ハツヒト


 ――さて、ではその前に、1つ不思議なお話をしてさしあげましょう。

 暗く湿った茂みに生える、紫色の花をご存じですか? あの、教会の尖った屋根のような、ベルのような形をしてうつむいている。あれはジギタリスと言って、毒の花なのです。

 その毒の花であるジギタリスの妖精が、ある時こう思ったのです。

「私は毒の花、暗い色の花、誰も私をすばらしいと思ってはくれません。だったら、すばらしいもののお嫁さんにしてもらいましょう」

 そうして毒の花の精は、花が咲くには欠かせない水がありがたいからと、泉へ行きました。

「泉の主さん、泉の主さん」

 毒の花の精が澄んだ泉に声をかけると、水面の上に泉の主が現れました。

「おや、こんにちは、ジギタリスの妖精か。一体どうしたのかな?」

 泉の主は言いました。

「私は毒の花の精、つまらないものですから、つまらない私をすばらしい貴方のお嫁さんにして下さい」

 そう告げられて、泉の主は困ってしまいました。相手は毒の花ですから、そんな取るに足りないものをお嫁にもらうことなんて、とても気が進まないからです。だから泉の主は、どうにか言い逃れをしようとしました。

「ジギタリスの妖精、あなたはわたしをすばらしいと言ったけれど、わたしみたいな小さな泉は、あの太陽が頑張ればあっという間に干上がってしまう。だから、太陽の神のところに行くといい」

 確かに太陽の恵みがなくては、花は育つことはできません。泉の主が言うことはもっともだと思い、毒の花の精は泉の主にお礼とお別れを告げ、太陽の神のところへ行きました。

「太陽の神さま、太陽の神さま」

「何者だ、我の名を呼ぶのは」

「ジギタリスの妖精です」

「して、その花の精が何用だ」

「私は毒の花の精、つまらないものですから、つまらない私をすばらしい貴方のお嫁さんにして下さい」

 そう告げられて、太陽の神も困ってしまいました。太陽に比べて、毒の花はあまりにも取るに足らないものだからです。だから太陽の神も、どうにか言い逃れようとしまし

た。

「我より雲の方がよほど素晴らしい。なぜなら我は、雲に覆われれば全く役に立たないからだ。雲の繰り手のところへ行くが良い」

 太陽の神が言うことももっともだと思い、毒の花の精はお礼と別れを告げて雲の繰り手のところへ行きました。

「雲の繰り手さん、雲の繰り手さん」

「わしを呼ぶのは誰じゃ」

「ジギタリスの妖精です」

「花の精がどうしたね」

「私は毒の花の精、つまらないものですから、つまらない私をすばらしい貴方のお嫁さんにして下さい」

 毒の花の精は同じ言葉を繰り返し、雲の繰り手もやはり困ってしまいました。ところが、その花の精からどうやってここまで来たかを聞くと、たちまち雲の繰り手も同じようにしました。

「ふむ、それならば、わしよりよっぽど風の精霊殿の方がすばらしいのじゃよ。わしは風殿に吹かれてしまえば、あっという間に飛ばされてしまうからの」

 確かにそれもそうだと思い、毒の花の精は今度は風の精霊のところへ行きました。

「風の精霊さん、風の精霊さん」

「あんたはジギタリスの妖精か。何だい」

 毒の花の精は、また同じ言葉を繰り返しました。風の精霊もやはり困ってしまいましたが、ここへ来たいきさつを聞いて同じく他にやることにしました。

「おいらがどんだけぴゅーぴゅー吹いても、ハヤブサの奴はびくともしない。はやぶさのほうがすばらしいや」

 そうして毒の花の精は、ハヤブサのところへ行きました。

「ハヤブサさん、ハヤブサさん」

「お前はジギタリスの妖精だな。俺に何か用か」

 毒の花の精は、またまた同じ言葉を繰り返しました。ハヤブサもやはり困ってしまいましたが、同じく他にやりました。

「俺にだっておっかないものはある。俺はどうやったって死にはかなわない。だったら死の国の王にめとってもらえ」

 そうかもしれないと毒の花の精は思い、今度は死の国の王に会いに行きました。

「死の国の王様、死の国の王様」

「余を呼ぶのは毒の花の精か」

 毒の花の精の話を聞くと、死の国の王もまた他にやりました。

「余は確かにあらゆるものに死を与える。しかし余のものにしようとすると、医者は救って奪ってしまう。ならば医者のところへ行きたまえ」

 毒の花の精は言われるままに、医者のところへ行きました。

「お医者さん、お医者さん」

「あぁ、君はジギタリスの妖精か」

「はい、そうです。つまらない私をすばらしい貴方のお嫁さんにして下さい。泉と太陽、雲と風、ハヤブサと死のところへ行きました。けれど、どこへ行っても他の人の方がすばらしいと言われたのです」

それもそのはず、誰でもジギタリスのような一介の花、それも毒の花の精を嫁にしたいとは思わなかったのです。

「なるほど、それで僕のところへ来たのだね。残念だけれど、僕も僕よりすばらしいものを知っているよ、ジギタリス。

それは君だ」

 とお医者さんは答えました。

「僕は病気の人を治すのが仕事だけれど、例えば心臓の悪いからといって、僕が動かすことはできない。いつでも心臓の悪い人に付き添うことはできない。それができるのは僕ではなく薬だ。そして心臓を動かす薬は、ジギタリスから作られる。君は君ですばらしいんだよ」

 そう言ってお医者さんは励ましました。ジギタリスの妖精はうなずいて、自分の花畑へ戻り、同じジギタリスの妖精と結婚しました。

 ジギタリスの妖精とジギタリスの妖精の結婚を祝って、仲間の妖精たちは輪になって踊りました。草を踏むと小さな足が傷むから、彼らは地面に輪の形に並んだキノコを生やし、その上で踊り回りました。それが妖精の輪(フェアリーリング)と呼ばれるものです。

 不思議な話はこれでおしまいです。

 それでは、ジギタリスと泉と太陽と雲と風とハヤブサと死と医者とジギタリスに感謝して、このキノコづくしのお料理を食べましょう。

いただきます。


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