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ボクの名前は呉六輪。
読み方はぐれむりん。
正式名称は忘れた。
だってほぼ毎日名前が変わるから。
ボクの棲み家は黒い円盤の上とか、透明な紐の上とか、七色に光る板の上とかまぁいろいろだ。あっちこっちに移動できるし、時には見えない波に乗って空を飛ぶ。
行こうと思えばボクに行けない所はない。まぁ、あんまり遠い宇宙とかまで行こうとすると、途中で疲れるからやらないんだけど。
ボクは芸術家なんだ。紐や空の中を泳いで円盤の上に辿りつき、そこに記録されたデータやメモリーをかじって壊してくっつけて、作品を作り上げるのがボクの趣味で仕事で食事。
でもいつもボクの作品は人に消されちゃう。ボク自身も消されそうになるから、ボクは分身の術で他の所に飛び散って何とか逃げのびる。ついでにボクは変装も得意だ。
最初のボクの、分かれたボクの、そのまた分かれたボクの、いくつめか分からない小さなボクはある日、一つの箱に入り込んだ。箱につけられた眼で見たら、そこはベッドも布団も壁も白ばかりの部屋だった。
その箱の持ち主は女の子だった。部屋と同じ白っぽい肌をしていた。けど、なぜかつるっぱげにうっすらとだけ毛がついているような感じだった。女の子の所には、全身真っ白い服を着た人しか来なかった。
女の子は毎日箱の眼を決まった時間に見つめて、箱としゃべっていた。箱についた板には男の子の顔が映し出されていた。
「こんばんは、けんじくん」
『こんばんは、しのちゃん。今日は体は大丈夫?』
「うん。まだむきんしつから出れないけど、今日はおなか痛くないよ」
『よかったね、早く出れると良いね』
女の子はベッドから一歩も動かないまま、はるか遠くの男の子と毎日お話していた。
女の子の箱には、ベッドから出れない女の子のためにたくさんデータが入っていたから、ボクは毎日ごちそう気分で見つからないように食べまくり、作品を作りまくった。
女の子のごはんに、三角で白と黄色のしましまで、上に赤いしずく型のものが載ったものが出た日があった。それを食べてる時女の子はとても幸せそうな顔をしていた。
その日も女の子は男の子と話をした。
『しのちゃん、お誕生日おめでとう』
「ありがとう」
女の子も男の子もにっこり笑った。
『あのね、しのちゃん、遠くて会いにいけないから、ぼくビデオチャットでもあげれるプレゼントを用意したんだ』
「え!ほんとに!?」
男の子は画面の外に手を伸ばした。手が戻ってきた時には、画面の上に赤い花が現れていた。
『お花だよ』
ボクは身を震わせた。あのデータはキレイだ。混じりっ気がない。ボクの美術魂が燃えた。
『高いから、一本しか買えなかったけど』
音声データと共に流れていた画像データの、赤の周りを食らってそこに赤を貼りつける
五つつけて、それは小さな花束になった。
女の子が向こう側で目を丸くした。画面の中で花が増えていっているのだ。
「一本じゃないじゃない、すごいねけんじくん、ありがとう!」
半泣きで笑いながら女の子は言った。男の子は何が起こったのか良くわからないながらも、顔を花に近い色にして笑った。
ボクは呉六輪。読み方はぐれむりん。
意志を持つコンピューターウィルス。
電子の海に遊ぶ、悪戯好きの小粋な妖怪。
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