錬金術師の助手  有内 毎晩



 崖の上に立つ建物。奴らの服装からして拠点はこの軍事施設で間違いは無いだろう。あの人数では一旦、元の場所に戻るはず。この手の建物は番犬さえいなければ、侵入はさほど難しくない。フェンスの網は越えるより切ってしまった方がこの場合は安全。

 建物の壁面に準備をしてから中へ。ダクトを通れば、特定の場所までは見つかる危険も無く進める。

「ん、なんか今、物音しなかったか?」

「そうか? 俺は何も聞こえなかったけど」

 下から話し声が聞こえてくる。特に気にせず、前へ進む。ちらっと手元の時計を見て、そろそろ時間であることを確認する。


 ドドンッ! と複数の爆発音が轟いた。

「な、何だ!」

 慌てるような声と共に、足音が遠ざかる。警報のベルがけたたましく鳴り響き、非常用の赤いランプが点灯する。

 訓練されている軍人とはいえ、まだ彼らは下っ端。唐突に危機的状況に陥れば、パニックになる。しかし、爆発の威力は抑えて避難用のルートも使えるように位置は考えてある。怪我人はともかく、死人が出ることは無いだろう。

 下の通路が無人になったことを確認してから降りる。

 ここからが問題。この建物には保管庫が複数存在する。手当たり次第に見ていくしかない。そもそも保管庫にすら入っていない可能性もある。

 一ヶ所目。素早くロックを破って中を確認。しかし、それらしき物は見当たらない。扉を閉め、逃げる軍人達の視界に入らないよう注意しつつ、次の保管庫へ急ぐ。

 二ヶ所目。ここも違う。

 三ヶ所目――

「!」

 目を見開いた。

 人が抱えられる程度の大きさで、見覚えのある古びた布に包まれている。中身を確認しようと、僕はそれに近付き手を伸ばし――

「そこで何をしている」

 声がして、扉の方に体を向けた。

 熊のような体格をした大男。博士を訪ねていた例の軍人が、そこに立ちはだかっていた。

「ほう、貴様は……あの研究室にいた助手だな。この騒ぎは貴様が起こしたものか? 随分、派手にやってくれたな。使った爆発物は、研究室から持ってきたか?」

 男の顔に、あの貼り付けたような笑みは無い。敵を徹底的に威圧するような、怒りの表情。これがこの男の本性といったところだろう。

「あの女の敵討ちのつもりか? そこのアゾット剣をわざわざ取り返しに来たのか? ご苦労なことだな。あんな馬鹿な女のために危険を冒すとは……」

 あからさまな挑発だ。僕が取り乱したところで一気に丸め込む算段なのだろう。

 しかし、今更僕にそんなことをやろうが意味は無い。

 何故なら、とっくに僕の堪忍袋の緒は切れているのだから。

 

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