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錬金術師の助手  有内 毎晩



「駄目だ、駄目だ!」

 博士が怒鳴った。どうやら、あの新人がやらかしたらしい。

「硫黄の量が多すぎる! 何度も言っているだろう、水銀との比を考えろ! 真面目に錬金術を学ぶつもりが無いのならば出て行け!」

「……ああ、そうかよ! そう言うんなら出て行ってやるよ! こんな非現実的なこと、アホらしくてやってられるか!」

 叱られた彼は、乱暴に部屋の扉を蹴り開けて、去って行ってしまった。広い研究室には、僕と博士しかいない。

 やがて、博士は眉間に手を当てながら、溜め息を吐く。

「……すまない。また一人追い出してしまった。君の負担が増える」

「いいんですよ。僕は好きで博士のお手伝いをしているんですから」

「……君、その発言は遠回しにアラサー突入直前の私へ対するプロポーズと解釈しても」

「駄目です」

 念のために付け加えておくと、中性的な口調をしているが、博士は女性である。

「甲斐性無しめ。結婚なんぞ勢いでなんとかなるものだ」

「なんとかならない人達がこの世には満ち溢れているんですよ、博士」

 博士は白衣の胸ポケットから煙草のケースを取り出すと、一本摘まみ出して火を点けた。博士は大の愛煙家である。僕の中には、火気厳禁の薬品を扱う時以外、大抵煙草を咥えているイメージがある。

 博士は口からゆっくりと紫煙を吐き出すと、ぽつりと呟いた。

「ラピス・フィロソフォラム――多くの人間が求めていたはずなのに、いつからその夢は途絶えてしまった? あの素晴らしい理想を持ったアルケミーはどこへ消えた?」

 博士の言い回しがいつものものに戻っていた。この部屋に僕しかいないからだろう。

「……消えてなんかいませんよ。少なくとも、博士と僕がいます」

 僕は博士の前で、彼女の研究を否定することは言わない。時代遅れだと、抱腹ものだと、そう蔑まれた時の彼女の表情を知っているから。

「……皆、忘れている。現代の自然化学は、過去のアルケミスト達の偉大な成果の下に成り立っているというのに」

「『祈れ、読め、読め、読め、さらに読め、しかして作業にかかれ』ですよ、博士。さあ、実験に戻りましょう」

「む……それもそうだ。しかしさっき出て行った奴の所為で、白い女は台無しだ。今日は、木曜日だな。十七時十分から、水のアルカエウスでも作ってみようか」

「博士、それにはアンジェリカ水が必要ですよ」

「そうだな。確か、以前に試したものがそこの黒い壺に入っていないか?」

 

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