錬金術師の助手  有内 毎晩



 午後、博士も調子を取り戻し、研究室で金属の精錬作業をしていた途中で、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。

「ん、来客か? すまないが君、出てくれないか」

「はい」

 扉を開けると、一人の男が深く頭を下げてから研究室の中に入って来た。

 熊のような体格の大男。大きなコートを羽織り、頭には特徴的な帽子を乗せていた。

「失礼。突然で申し訳無いですが、間違っていなければ、そちらに居られる女性がかの有名な錬金術研究の……」

 大男は入ってくるなり、博士の元へと近付く。

「私に用か? しかし、自分で言うのもなんだが、私はあまり良い方に有名では無いはずだがな」

「いえ、とんでもない」

 男は笑顔で答えるが、僅かながらそこには違和感がある。貼り付けたような笑みの下に、黒いものが見え隠れしている。

「私が此度ここへ参ったのは、他でもありません。我々が探しているアゾット剣を、貴女が所持していると伺ったもので」

 ピクリ、と博士は眉を顰めた。

 本当に厄介なものが現れたと思っているような表情だった。

「まったく。どうやって嗅ぎ付けたかは、私の知ったところでは無いが……」

 やれやれ、といった風に博士は溜め息を吐く。

「アレをくれてやるつもりは毛頭無い。私が機嫌を損ねる前に帰るんだな」

 それでも男は引き下がろうとしない。気味の悪い笑みを浮かべたまま、博士に詰め寄る。

「そうは言われましても、こちらにも事情がありまして」

「だったら、どんな事情か訊かせてもらおうか」

 博士は男を睨み付ける。

「私はその関係者でもミリオタでもないが、その帽子が何なのかは知っているぞ。君は軍人だろう。世の為、国の為、人の為と謳って兵器開発をしているような輩どもにアレを渡せばどうなるかは察しが付く。判ったら、帰るんだ。三度目は無いぞ」

「…………」

「…………」

 しばらくの沈黙の後、観念した男の方が口を開いた。

「……後日、またお伺いしますよ。必ず」

 一瞬だけ、男の表情が憎悪を含んだものに変化したが、すぐにまた貼り付けたような薄ら笑みに戻り、再び深々と頭を下げて研究室を出て行った。

 

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