錬金術師の助手  有内 毎晩



「……しめて三万だぜ」

「いいんですか、そんなに?」

「まあ、お得意さんだからな。多少はサービスしてやるよ」

 ある日のこと、僕は博士の言う『鉄屑ジイさん』の元を訪ねていた。

 彼は博士が冶金を行った金属を比較的良心的に買い取ってくれる業者の方である。博士は彼のことを苦手だと言うが、少なくとも親切な人だと僕は思う。

「いつもありがとうございます」

「礼はいらねえ。こっちはこっちで世話になってる。あの娘にもよろしく言っといてくれや」

「……そういえば、あなたは博士のことを昔から知っているんですよね?」

「ん? ああ、そうだな。アイツが錬金術に手を出す前からな。何か訊きたいことでもあるのか?」

「……博士の、お兄さんについて」

 彼は目を丸くした。

「何だ? アイツに訊かなかったのか?」

「訊ける雰囲気では無かったので……」

「ああ……まあ、確かに話したがらなかったっけなあ。アニキのことだけは」

 彼は思い出すように、話を始める。

「考古学か何かの研究してたんだったか。よく海外にも飛び回ってた元気な奴だったんだが、交通事故で亡くなっちまったんだ。あの娘は、アニキに懐いてたもんだから、かなりショックだったんだろうな。錬金術で不死の研究なんぞし始めたのもその頃だ。あの時のアイツは、本当に怖い顔してたぜ。飯も食わず、寝ることもせず、ぶっ倒れるまで研究に没頭してやがった。まあ、アンタを拾ってからマシになったな」

「えっ、僕ですか?」

 不意を突かれた。思わず、間抜けな声が出てしまった。

「アンタの世話もしてるうちに、研究以外の生き甲斐を見つけたんだろうぜ。アンタはアイツを恩人として付き従ってるみたいだが、アイツにとってもアンタはそういう意味で恩人ってことだ。ははっ、俺みたいな年寄りとしては、アンタらがいつくっつくか楽しみでしょうがねえよ」

「ま、またそういう冗談を……」

「いや、冗談じゃねえさ」

 彼は笑いを止め、真剣な眼差しを僕に向ける。

「今でこそ悩みとは縁遠いように見えるあの娘にも、辛いことや悲しいことがこの先あるだろう。そりゃあ、人として避けられない道みたいなもんだ」

「……それで、僕はどうしろと」

「なに、特別なことは何もしなくていい。ただ、その時は……アイツの傍にいてやってくれ。それだけだ」

 そして、彼は小さく笑った。

 

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