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床下の洗濯室

風観 吹


 私の自慢は、旦那様のお召し物の洗濯を任されていたことでした。

 雇用主一家の洗濯物を不備なく洗うことが、私たち洗濯女中の役目です。地下に設けられた洗濯室や乾燥室で毎日毎日洗濯物と格闘しておりました。

このお屋敷の洗濯女中の中でも私の洗濯に関する知識と技術は飛び抜けていたと自負しております。だからこそ、奥様は私に旦那様の洗濯物を任せてくださったのです。

 旦那様のお召し物を洗濯できるのは私だけでした。

 毎日毎日、私は一生懸命働きました。

水を汲みに行くために、お屋敷から離れた井戸まで足を運びます。そこでは、同僚や他のお屋敷の洗濯女中が若い男や軍人と戯れておりましたが、私はそんなふしだらな輩の仲間になど入りたいとも思いませんでした。

私には、仕事がすべてだったのです。

旦那様のお召し物をいかにしてシワ一つなく仕上げることができるか。私の頭の中は、いつもそれでいっぱいでした。

ある日、私の苦労が実る日がやってきました。

 突然、執事さんが洗濯室に入ってこられたのです。

 執事さんは私を名指しして、手招きました。言われるままに彼に駆け寄っていくと、執事さんは私にこう囁いたのです。

「あなたの努力が報われたようです。旦那様がお呼びですよ」

 私は同僚からの羨望の眼差しを背中に受けながら、執事さんの後を追って旦那様の書斎に向かいました。

 旦那様はとても温かく優しい笑顔で私を迎えてくださいました。

 旦那様はきれいに整った栗色の口髭、丁寧にかしつけた髪と片眼鏡が特徴的なお方でした。

 緊張と恐縮で私は動けずにいました。そんな私の肩を叩くと旦那様は、壁に掛けてある年代物のコートを手で示して、心地よい低さのお声でこうおっしゃったのです。

「祖父の形見のあのコートが長持ちするのは、君のおかげさ。この糊の効いたシャツといい、コートといい、君の洗濯技術は大したものだ」

 ああ、なんともったいないお言葉! 

 私は喜びのあまり、声を出すことができませんでした。

「一言、お礼が言いたくてね。来てもらったんだ」

 その時の旦那様の笑顔は、とても魅力的で、寛大で、優しさに満ち溢れていて……月日が経った今でも忘れることができません。

 その日から、私はさらに洗濯に没頭する日々を送りました。

 日々の仕事は確かに大変なものでしたが、旦那様のためを思えばまったく苦にはなりませんでした。時折、旦那様のお姿をお目にかかることは私にとって最上の喜びでした。

 しかし、ある日、私は大変な失態を犯してしまいました。

 旦那様の大切なコート、おじい様の形見だというあのコートを一着、駄目にしてしまいました。乾燥のために焚いたかまどの火を、不注意からコートに燃え移らせてしまったのです。

 私は自ら罪を償いました。焦げたコートを抱きしめながら、私は自分の胸にナイフを突き立てたのです。


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