夕方近くにもなると、駅は人で満たされる。昔よく遊んだ、学校近くの廃駅とは違い、雑多な音とけたたましいアナウンスで落ち着かない気分になる。あの駅は、たそかれ時が一番美しかった。今はもうない。街並みの向こうの方で、山際へと太陽が消えていこうとしていたが、何の感慨も浮かばなかった。
ひと際きんきんする声がしたので横に視線を向ける。三人の女子高生が土鳩の群を前に騒いでいる。その正面で本を読んでいた中年のサラリーマンが、迷惑そうに顔をしかめた。女子高生たちは、気付くはずもない。持っていた菓子パンをちぎっては鳩の群れに投げ込み、きゃあきゃあとふざけ合っている。サラリーマンは注意するためか、立ち上がって女子高生たちの方へ歩き出した。列車の到着を告げる、機械的なアナウンス。構内に散っていた人々が、点字ブロックの前に整列する。やがて電車が到着し、その重量を増やして去っていった。
私は、駅員に見つからないように、そっと線路の上に降りた。足もとに敷き詰められた大量の礫は、上から見るより、その一つ一つがずっと大きく感じる。周りに人がいないことを確認し、レールをはさんだホームの反対側、背の高い雑草に覆われたフェンスの近くに身を隠した。すぐにまたやってくるはずの電車を待った。
あまり緊張はしていない。普段から気負うような性格ではなかったし、中途半端に諦念が勝っていたせいもある。電車が来る前の、スピーカーから流れるあの例の電子音が、一定の間隔で頭の中を刻む。痛まないはずの右手が痛い。電車が来た。重複する高い金属音が辺りをひずませた。ふしゅう、と気の抜けた音で、鉄の塊は完全に目の前で停止した。私は電車の正面に回り込む。運転手からは見えない角度だ。たぶん。
確認したかっただけだ。本当はそんな嘘みたいな話、信じちゃいなかった。もしかしたら、なんて期待は一切ない。自分が変わってしまったことを、確認したかっただけなのだ。
電車の正面に座りこんだ。発車の合図、苛立ったような、笛の音。目の前には、電車とレールのわずかな隙間。残したいものは、もう残してきた。私の中で、変わらないもの。子どもの頃を、思い返していた。





続く→