私が目をつけたのは、クラスの男子でした。出席番号一番の相場拓也さん。彼は、私の理想とする男性でした。
私たちは平成三年生まれ。現在で十七歳になる人間の集まりです。そしてこの年に生まれた赤子の中で二番目に多かった名前が『拓也』なのです。それはつまり同年代でデータを取ったとき、二番目に多い名前ということになります。なんとすばらしい、平均的な名前でしょう。しかも、前後の年にもランクインし続けており、私たちの年代という区切りで調査を行えば、ぶっちぎりの一位です。私がこれを知ったとき、驚愕と羨望と多少の嫉妬を抱いたのは言うまでもありません。ああ、できることなら私も当時一番多かった『美咲』という名前を頂きたかったものです。今更そんなもの無いものねだりなのは重々承知していますが、そう思わずにはいられませんでした。
 しかしもちろん、私が恋人にしようとする人間を名前だけで選ぶなんてことはありません。他にも理由はあります。
 それは、彼のクラスにおけるキャラクターです。彼は男子の中核グループに近い小さなコミュニティに所属しており、男子内での立場ではそこそこではあるけれど中心人物ではない。劣ってはいないけれど、優れてもいない。……あまりの素晴らしい立ち回りに、身が震えてしました。それは私が到達しようとしてる、まさにその場所です。
 彼の優秀さはまだまだあります。他には、容姿などどうでしょう。彼は髪を染めることなく黒で、それを今風ながらも短く整えています。普通です。目元は一重で、鼻もそれなりに低く、体格も骨ばっていたりすること無く、かといってか細くも無く。背丈はクラスで並べばちょうど真ん中。もし美術の時間に彼をスケッチしろといわれれば、多くの生徒はあまりの普通さに困ってしまうでしょう。さらにはテストの成績さえも、彼は平均をきっちり抑えるという徹底のしようです。彼のテスト成績を私が知っているのは、グループ内での点数勝負の時に声を上げていたのを偶然にも私が耳に入れたからです。驚きました。各テストの平均点から誤差三点以内、さらに総合点数では二点以内に収めていたのです。神に愛されているとしか思えない所業です。
 素晴らしい、なんという素晴らしい逸材でしょう。語彙の少ない私には、もはやその陳腐な褒め言葉しか浮かびませんが、やはり彼には素晴らしいという言葉を贈る他ありません。
 だから、私はそれらの賛辞を混ぜつつ、彼にこう告げたのです。
「貴方の平均的な生き方に感動しました。私の平均的な人生のために、付き合ってはいただけませんか?」
 返答は、少し彼らしくなかったのが残念でした。

続く→