6.驚愕の罠
「お前、今日が誕生日だったのか?」
「あれ? 先生知らなかったんでしたっけ?」
「最近は、お前の家とのつき合いもほとんどないからな。昔聞いたことがあったかもしれんが……お前のような奴の誕生日など、いちいち覚えてもいられん」
 やっぱり棘のある言い方だが、今はまったく気にならない。俺は今、幸せいっぱい胸いっぱい。他の感情が入り込む隙間なんて微塵もない。
「そうですよ。今日が俺の誕生日なんです。だから、今日計画が達成されて本当に嬉しいんです。先生には本当に、感謝感激雨あられ、豪雨豪雪どんと来いですよ!」
「最後の意味がいまいちわからないんだが……」
「わからなくて構いません」
 今日は誕生日……そう、生まれ変わった俺の、素晴らしい旅立ちの日となるのだ。
 さらば、昔の俺!
 さらば、LSL
 そしてようこそ、
 HSLHigh-Shincho-Life)!!
 
「……ハァ」
 
そんな俺を見て、深い憐みの視線と共に、大きく溜息をつく先生。いったいどうしたんだ? これはある意味、先生の研究の成果でもあるのだから、もう少し喜んでもいいはずなのに……。
「この流れだと嫌な予感しかしないが……お前、今日の何時頃生まれたか、覚えてるか?
「? ……確か、朝のまだ暗いうちだったと思いますよ? おふくろが夜通し踏ん張って、ようやく生まれたらしいですから」
「……やっぱりか」
 そう言って、また深く溜息。どういうことだ? 俺が生まれた時間が、いったい今のこの状況と何の関係があるのだろう……。
「お前、まだ気がつかないのか?」
「気がつかないって、何にですか?」
 そう俺が聞き返すと、先生は黙って、保健室の一角を指差した。といっても、そこには、この半年間腐るほど見てきた、あの表しかないはずなのだが……ん?
 
『高2(16歳)……170.0cm
 
「…………あ」
 
『(16歳)……170.0cm
 
「……あ……あぁ……!」
 
『(16歳)』
 
 
「あぁぁぁあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁああああああああああああああぁぁぁぁあああああああああっ!?」
 
 
「本っ当に馬鹿だな、お前は……」
「じゃ、じゃあ……ま、ままま、まさか――!」
「ギリギリアウトだな。お前の今現在の目標値は、170.0ではなく、その下の170.8cmだ」
「なん……ですって……?」
「ちなみに、もう成長期は終わったようだし、私の薬も意味が無い。お前の計画は、失敗だ」
 
どうやら、最後の最後に俺は、神の手によって、ペルー渓谷のどん底まで、突き落とされたらしかった……。

続く→